マッチングアプリについて最後に記事を書いたのはいつだっけ?
振り返ればアプリ歴4年、会った男性は計14名。今回は、いちばん最近会った松浦くんについて書きます。
14人目となった松浦くんが、アプリで会った最後の男性になった。
彼と知り合ったのはタップルというアプリを通じて。多くの人と会ってきたうち、松浦くんは他の人と違っていた。どこが違っていたかというと、マッチングして一発目のメッセージでいきなりデートに誘ってきたことである。

彼は、私の小沢健二ファンであることとか、宮沢賢治が好きとかいうところに興味を持ったと言っていた。こう、メッセージのやり取りもままならないまま会うことになったが、不思議と抵抗は感じられなかった。それは私の渋〜いプロフィールを見てだと言ってくれることに安心感があったからだと思う。つまりチャラい人ではないだろうという…。すぐにOKした。

運命の人とは、波長の合う人だとか、導かれたようにトントン拍子に出会うとかいうけど、そういう説を信じれば彼は「運命の人」と言ってよかった。最初のやり取りのわずか2日後。仕事終わりに松本駅前で待ち合わせた。
「こんばんは」

松浦くんは背の高い、なんとも清潔感のある人だった。
フキ「仕事終わりにすみません」
松浦「こちらこそ。何か食べたいものありますか?」
フキ「うーん、特にないですけどお腹空かせてきました!松浦さんは?」
松浦「どんぐりとかどうかなって思ってたんですけど、どうですか?」
フキ「あ、どんぐり大好きです!行きましょう!」

「どんぐり」とは、松本では有名な老舗の洋食屋さんである。
そう、ほんと、すべてトントン拍子という感じだった。

私の「小沢健二好き」という所に興味を持ったというのも、彼は大の昭和の邦楽好きであるからだった。また彼はかなりの読書家、歴史好きな人だった。趣味が多くてすごいなぁと思った。会話はお互い最近読んだ本についてに始まり、やがてお互いの恋愛観にまで及んだ。
フキ「私、恋愛が悪いものだとは思いませんけど、恋愛至上主義みたいな世間の価値観は好きじゃないですね。ほら、映画やアニメも、どれも愛がどうとかばっかじゃないですか。マッチングアプリをやりながら言うのもアレですけど、私は恋愛ってホルモンによるところが大きいと思ってるんです。結局『性』じゃんって。すごく冷めた目で見てしまうところがあって」
松浦「あー分かる。結局はそうなんだと思うよ。おれもそういうことは頭の片隅に置きながら、でもやっぱり誰かに恋したいような気持ちはあるよ。でもたとえば宮沢賢治が書いてるみたいなさ、性とか恋とか関係のないところの愛ってのが本当の愛ではあるんだろうね」
フキ「分かってくれますか… !恋愛に関して言うと、最近、パールバックの『大地』という本を読み終えたところなんですけど、登場人物に王淵(ワンユェン)って男の子がいまして。彼は旧式の婚姻制度とか家柄に束縛されて、新しい時代の価値観を求めるんです。でも彼は同時に恋愛に関してはすごく古めかしい考え方をするんですよ。真実の愛って何だろう?ぼくらの欲しい『自由』の中に、それはあるのだろうか?ってずっと苦悶していて…。女の子の手を触ることすら自分に許さないんです。そんな彼の姿を見て、そうだ、性とか恋とか愛を、本来軽んじるもんじゃないって、私すごい共感したんですよ。彼の恋愛観は私のそれそのものですね。本当にいい本でした」
いや、いざ書いてみて、こんな会話をマッチングアプリで出会った男女がしていると客観視してみると、、「馬鹿なのか?」って感じがしますね。ま、いいとして。

夕食を終え、2軒目カフェに移り、いろいろな話をした。

「これは戦国時代のさ…あ、そっかフキさん歴史はあまり詳しくないって言ってたね」
「でもさっき『個人主義』だって言ってたのは、あれはどういう意味?」
「それを言えばさっきフキさんが言ってた王淵(ワンユェン)くんの考え方もさ…」
松浦くんと話していて思ったのは、すごく人の話をちゃんと聞いてくれる人だなってことだった。ちょっと前に話したセリフをちゃんと覚えててくれてるというか…。
私は人と話すとき、大まかな相手の意図を理解できればいいやと思って、その発言の細部は聞き流してしまったりする。だけど松浦くんはそれがなかった。
「さっきフキさんが〜〜って言ったのは…」と松浦くんが言うたびに、「あ、私の話ちゃんと聞いてくれてたんだ!」と感動した。彼はしっかり「会話」をしようとしてくれるというか…。
夜9時、お開きとなった。楽しい時間だった。順調、である。マッチングアプリで会って、3時間近くも、退屈する間もなく会話ができたのだ。

信号待ちの交差点に2人で立つ。そのとき。私は夜空を横切る電線を見上げてふと、何ともなしにこう思った。


「私たちは、次は会わないんじゃないだろうか」
2回目は会いたくない、とかいうのではなかった。ただ、なんだろう?それだけ今日の満足度が高かったのかもしれない。でも、次会って、またこうして話をしたりする必要はお互いないんじゃないかと思った。ふとぼんやりだけど、そういう感覚があった。

帰り道の分岐点、駅前の大きなスクランブル交差点に差し掛かった。その時…

「LINE、交換しませんか」と松浦くんは言った。
私「あ…そうですね、せっかくなんで、ぜひ」
松浦「次また仕事終わりにご飯とかどうですか?フキさん確か、10、11日が仕事が終わるのが早いって言っていましたよね…」
(ほんとに、人の話をよく覚えている人だ!)
松浦「…ん?」
ところが次の瞬間、LINEのユーザー名である私の本名を見た彼はこう言った。
松浦「フキさんって、もしかして深志にいました?」
「深志」とは、私の住んでいる松本市にある深志高校の通称だ。高校時代、優秀な同級生に囲まれた私に根深い劣等感を植え付けたあの高校だ。
松浦「やっぱそうだ!フキさん、1組にいたよね!?おれ、6組の松浦!いや、今日会ったときどっかで見たことある顔だなと思ったんだよ!」
フキ「え?あ、6組?(笑)ごめんね私他のクラスの人のことあんまり知らなくてさ(笑)へ、へー、松浦くん、同窓生だったんだ」
松浦「え!でもフキさん俺より一つ年上って言ってたよねぇ?」
フキ「そうそう、高2で留学したから、帰国してから一年間だけ下の学年に編入したの」
松浦「そうなんだ!いやー、こんなことってあるんだね!」


気持ちがぐらりと揺れてしまった。
というのも私は、同じ中学出身とか地元民にどうも弱い。同じ環境で青春を過ごしたというだけで「堅い絆」が結ばれてる気がしてしまって…。満たされなかった青春への想いがこうして私を「地元民」へ強く執着させているんだろう。それは分かっている。分かっていつつも、、

(深志生なら…)
という考えが浮かんだ。「二度と会わない」理由もないだろうと。
フキ「あ、じゃあまたご飯とか行こうよ!同窓生なわけだし、アプリとか関係なしに今後も気軽に会えたらいいな!」
松浦「だねー!」
こうして思わず松浦くんとの関係が続くことになった。後日も、仕事終わりにおでん屋さんに行ったり、お互いの好きな本を貸し借りしたり…。メッセージも頻繁に来た。
なんだろう。。
「友達として」、、ではないか。
ただの友達だったらここまでしないと思う。彼はなんで何回も連絡をくれるか?そして私はなんで何回も応じるか?それは他ならない、「恋人になる」可能性を秘めているからだ。すごい、同窓生とはいえ知り合ったばかりなのによくこんなに連絡し合うなぁと思う。ここが、私が異性との関係で毎回違和感に思うことである。

恋人、とか、それっぽく「それ以前」の関係の男女の、この謎の引力。例えば、親友のアンちゃんとは10年来の友達なのに、週に一回ほども連絡を取り合う理由は見つからない。かけがえのない人ではあるけれど。だから連絡を取ったり会ったりする回数は、その絆の深さには比例しないと思う。
分かる。松浦くんがこうやって連絡をくれるのは、私たちが「ナシ」の境界線をまたいでいないからなんだ。今までマッチングアプリで出会った人たちも、最初のうちは毎日メッセージしたり毎週会ったけれど、恋人として「ナシ」になっただけでピタリと関係が途切れてきた。この極端さはとても悲しい。アプリで出会っている以上、松浦くんともそうやって「結論」を確かめなきゃいけない瞬間が来るのだと思う。で、「ナシ」なら「ピタリ」と連絡が止むわけで。そう思うと…


恋愛って茶番だよなぁとつくづく思う。
さて、その誘われたキャンドルナイトには結局行った。木曽とは、私の住む松本から1時間半ほどの場所なので半日がかりの遠出となった。お昼過ぎに待ち合わせ、塩尻峠を越えて旧宿場町を巡り、滝を巡り、夕方からは木曽の町中に彩られたキャンドルを見て、夜はお好み焼きを食べて帰った。
道中、いろんな話をした。映画のこと本のこと、高校時代の部活のことや書道のこと。幼少期から書道をやっている松浦くんは、今でも週末は必ず書道をする時間をとっていると言っていた。

松浦「字を書くことは自分の精神のバロメーターにもなるんだよね。なにか心配事があるときにはやっぱり気持ちが乗らない。筆が、頭で描くのより早く走ってしまったり、逆に妙に重かったりね。自分でも気付かない自分の「心」の状態が字にはっきりと出るんだよ〜」
フキ「へ〜、そういうものなんだ!」
さてその日の夜、松浦くんは私の家の近所の喫茶店まで送り届けてくれた。

フキ「今日は運転ありがとう!楽しかったよ〜。気をつけて帰って!」
松浦「フキさんが楽しんでくれてよかったよ〜。」
フキ「じゃ。」
私が車から降りようとした、その瞬間のことだった。
松浦「あの、さ、フキさん」
私「え?」
松浦「…これ」


渡されたのは、白い封筒だった。
最初何だか分からなかった。え? なに、お金?と思った。え、なんで?お金なら、今日一日運転してくれた松浦くんにこそ私が払うべきか? あ、やばい、ぜんぜん考えてなかった用意してこなかった…
松浦「家に帰って読んでください」
…ああ!!!手紙かっ!!!!

(なーにが「お金か?」だよw)
異性から手紙をもらうなんてなかなかないから勘が働かなかった。なんだろうこの気持ち。恥ずかしいようなくすぐったいような。

ラブレターなんて、中1のとき一度もらったぶりだ。下駄箱に入れられた、あの小さなメモをよく覚えてる。くれた男の子のことを意識したことはなかったけど、すごいうれしかった。でもそれ以上に恥ずかしかったから、私はちゃんと返事をしなかった。そのことを今も悔いている。そんなことを思い出しながら家に帰ってシャワーを浴びた。ひと段落してから…さて。私は松浦くんにもらったその手紙を取り出した。


筆。
…そうだそうだ。松浦くんは書道が上手なんだ。…で、でも、ラブレターってこういう感じだっけ?(笑)松浦くんの華麗なる筆致を目で追った。

芙季さん
まず伝えたいことがある。
僕は芙季さんのことが好きです。
これから末長くお付き合いいただければと思います。
何卒よろしくお願いします。
(あ、手紙本文は引用ではないです。フィクション入ってます)

ラブレターというか、恋文、と言う感じがするな。書いた、というより「したためた」という感じがするな。うーんなんとも。便箋じゃなくて半紙に書かれているしな。
「お付き合い」って、「付き合う」ってことだよな。「好きです」って書いてあるしな。そっか、男の人と付き合うってこうやって始まるのか。てゆーか!好きですって、なんてストレートな単語。「りんごが好き」、とか、「青空が好き」、とか、好きはいっぱいあるはずだけど、「◯◯さんが好き」の好き、は、特別なような気がするな。勇気がいるような気がするな。
などと、いろんな気持ちが流れるのを感じながらその恋文を読み終えた。しかし読み終えてふと、私の心に、一つ小さな違和感が残った。

感謝有り難し
この文末を読んだとき、私にはわずかな、しかしはっきりとした勘が降ってきた。
「ああ、この人は、私じゃなくてもおんなじ手紙を書いただろう」
私の感情とは関係ない。この勘は、「降ってきた」というのがふさわしかった。どうしてそう思ったか論理的には説明できない。ただ、半紙に最後に余ったスペースを埋めようとするかのようなその文字の大きさが、そしてその筆末の、「難し」の筆運びのほんの僅かな「雑さ」が、なんだか、「感謝有り難し」とか「好きです」の言葉が総じて私に向けられたものではない、という直感に繋がったのだ。
イチャモンといえばイチャモンである。私は書に詳しい訳ではなく、ゆえに松浦くんの書を上手いとか下手とか判断できなく(彼の書は上手いんだろうけど)、だから「感謝有り難し」のその筆末が本当に乱れているかも分からない。松浦くんの書について技術的に言及できる立場でなく、それを分かった上で感じたのは、「松浦くんは相手が私じゃなくて、他の女性だったとしても、おんなじようにデートをしたし、おんなじように恋文を書いただろう」ということだった。

迷った。いや、実際のところ迷いはなかったと思う。私は後日松浦くんに返事のLINEを送った。
松浦くん、こないだはありがとう!そしてお手紙もありがとう。嬉しかったです。松浦くんの言っている「お付き合い」が恋愛関係のことだとしたら、私もよく考えてみたけど、、その気持ちには答えられません。でも松浦くんといることは楽しいし、これで関係が切れてしまうのも寂しいので、これからも深志の友達としてたまにご飯に行ったり、できたらいいなと思うけど、それはどうだろう?うまく伝えられたか分からないけど、私の気持ちを正直に書いてみたまでです。返信いつでもいいです。
正直に、なんか書いていないね。
フキさん。正直に伝えてくれてありがとう!俺も、フキさんとはそのくらいの距離感がちょうどいいのかなとなんとなく感じているところでした。でもお互いが感じていることを伝えずにすれ違ってしまうのは嫌だったので、こうしてちゃんと話せてよかった。そうだね、これからも友達としてよろしく頼みます!またご飯行こう!
彼も正直に書いているんだろうか?いや、たぶん少しは「本心との誤差」はあるんだろうな。なんか、人と人とはこんな時だって本音でなんかぶつかり合えないんだね。こんな時、だからこそか。
などと思いながら、LINEを閉じた。

これで関係が閉じてしまうんだなと思った。いつもの通り。「ナシ」の境界線を越えた男女の、絆の浅さは痛いほど知っている。
しかし意外なことに、松浦くんは引き続き私によく連絡をくれた。
「『銀河鉄道の父』読み終わったよ〜!よかったら貸そうか?」
「今度、高遠の葛飾北斎美術館行かない?」
「駅前に高級ラーメン店開店したの知ってる?」

どういうつもりだ?
…というか、私がアリとかナシとか過剰に考えていただけだったのかも。でも…これで私と松浦くんと2人で美術館とかに行ったら、それはそれでやっぱり変じゃないか?や、「友達として」、は、変ではないよ。えーー?そうか?!よく分からないな…。
などと考えながら煮え切らず、松浦くんの誘いには返信したりしなかったりしていた。

そんなある日。私は友人リサ(女)と会った。彼女は高校時代のクラスメイトで、今でも年に何回か会う仲である。それでふと、松浦くんのことを話題に出してみた。
フキ「あ!そうだ!リサ、6組に松浦くんっていたの知ってる?」
リサ「松浦くん…?ああ、知ってるよ、バド部のでしょ!同じ講座だったからよく顔合わせたんだよね。…で?彼が何?」
フキ「実はさ…」
事の流れを話した。アプリで出会ったこと、今でも連絡を取り合っていること。するとリサの反応は思わぬものだった。

リサ「松浦くんと⁈ え!いいじゃんいいじゃん‼︎ わたし松浦くんいいと思うよ!高校んときも部活すごいがんばってたし、授業でレポート見せてくれたり、成績もよかったんじゃないかな?すごいいい人って印象」
フキ「あ、へ〜…(笑)そうなんだ」
リサ「え!それでどうなの⁈ 付き合っちゃえばいいじゃん!!!」

え、え〜〜〜〜〜……??
急にそんなこと、言われても。
フキ「やー…どうだろ。なんか、付き合うとかそういう感じじゃなくて。一度告白されたけど断っちゃった。」
リサ「え?もったいない!!どうして?!」
フキ「……なんとなく。いや、すごいいい人だよ?頭いいし、優しいし」
リサ「いいじゃん!どう?私も太鼓判押すよ松浦くん。付き合ってみて、別に嫌だったら別れればいいんだし!もったいないよ。これ以上の人なかなかいないよ」
フキ「えーー……でも」
リサからの思わぬ激押しに、心が揺らいだ。付き合う、ことを考えてみなかったわけではない。でも、えー? どうだろう。
「…そんなに言うならリサが会えばいいじゃん」
この言葉にはトゲがあると、感じていつつも言ってしまった。トゲ?だれへの?松浦くんへのか。

フキ「あ!じゃ今度3人で会わない?!みんなで懐かしい高校時代の話でもしようよ!」
そうだ。マッチングアプリで出会ったから話がややこしくなるが、それ以前に私たちは同窓生である。私たちは日を改め約束し、3人でのプチ同窓会が開かれた。

これまた楽しい時間だった。話は大いに盛り上がり、解散となった。
リサ「松浦くん、昔と相変わらずやっぱいい人だわ」
フキ「あ、うんいい人だよね、すごい」
こうして3人は別れたわけだが…
さて、事態が動いたのは、この数日後のことである。ある夜、松浦くんから一通のLINEが入った。

ボルダリング?ああ、壁登るやつか…。
「リサちゃんと3人で」

…ん?
純粋に疑問に思った。どうして、松浦くんが仲介して遊びの計画が立てられてるんだ?リサに確認を取ってみた。
フキ「リサ!こないだはありがとう。あのさ、松浦くんからボルダリング誘われてるけど、これ、どういう話?笑」
リサ「お疲れ!あ、それね…。実は松浦くんに一緒に行かないかって誘われたんだ」
フキ「あ、そうだったんだ」
リサ「でもさ、私と松浦くんが2人でボルダリング?なんか変じゃん!それで、『フキも行くなら行くよ』って返信したの。それで、松浦くんフキに連絡したんじゃないかなぁ」
フキ「あー(笑)それでこの流れなんだ」
リサ「この前さぁ、3人でご飯行ったじゃん?実はあの後、松浦くんに誘われて2人で飲みに行ったんだ。で、その後も映画とか誘ってくれててさ…」
フキ「へー…」
リサ「私好きな人いるからって断ってはいるんだけど…」
驚いた。3人で会ったあのあと、この短期間ですでに状況が進んでいたこと。それはいい。だけど、一度でも「好きです」と言った相手に、他の女性と会う口実を作るために遊びに誘うなんて、なんか、、どーなんだろ。
それでふと、私はあの一文を思い出したのだ。

あの直感はあながち間違ってなかった、と思った。「松浦くんは相手が私じゃなくて、他の女性だったとしても、おんなじようにデートをしたし、おんなじように恋文を書いただろう」

まぁ、なんらおかしなことではない。松浦くんは、私が手紙に対して「ノー」の返事をしたから、アプローチの相手をリサに変えた。当然の成り行きではある。

この件はこれで終わった。
しかし事態はさらなる展開を見せた!
意外なことに、松浦くんはこの後も引き続き私を度々デートに誘ってくれたのだ。映画やお花見、お食事に…。

フキ「リサ、最近松浦くんと会ってないの?」
リサ「うん、ぜんぜん会ってないよ!だって私ほら、彼氏できたし」
フキ「ああ、そうだよね…」
(ピロリン!)
松浦「フキさん、お疲れ様!駅前の新しいラーメン屋、一度行きたいと思ってるんだけど、よかったら一緒に行かない?」

行ってどうするということもなかったが。

何かがはっきりするんじゃないかと思った。
ラーメン屋さんからの帰り道、これまた例の交差点で。信号が変わるのを待っているそのときに、松浦くんはこう言った。

松浦「いやー、フキさん、」
フキ「ん?」
松浦「なんか、苦しくなってきちゃってさ」
フキ「…」
松浦「こういう関係」
フキ「…」

フキ「もう会うのやめよう。」
私も良くないな、と思った。一度恋文を渡され、その返事をしたのに、そのあとでもリサとの食事に誘ったり、今日もこうして2人で会ったり…。中途半端な態度は、松浦くんを苦しめることでもあったのだ。これをきっぱりすることが、「ナシ」の礼儀なのだろう…。私の嫌いな境界線ではあるが、確かにその境界線は、この世にきっぱりと存在していた。
しかし帰宅後LINEが届いた。


リサ「松浦くんね、松浦くんの一番の夢は、奥さんができて子供ができて、幸せな家庭を築くことなんだって、話してくれた。多趣味で、活動的なふうではあるけど、言ってたよ。『家庭ができたらおれはそっちに全力を注ぐ。自分のリソースの一切を家庭に割くし、自分の趣味なんかぜんぶ捨ててもいい』って。フキはどっちかっていうと恋愛に関しては『お互い干渉せずにいよう』って姿勢でしょ?松浦くんそれが分かってフキには言えなかったみたいだけど…」

これを聞いて、私は松浦くんを中途半端な人だとは思えなかった。あの走り書きしてしまった恋文も、リサへの急な鞍替えも、「くるしい」の言葉も、ぜんぶ、松浦くんは松浦くんの心と向き合った結果であったと思う。私が松浦くんの立場だったら、松浦くんと同じようにするだろう。アプリで出会った女性にまめに連絡してデートを重ねるし、その人がダメだったら、その次現れた女性を誘うだろう。そしていつか苦しくなったとき、それを打ち明けて「もう会うのやめよう」と言われれば「や、ちょっと待て」となる。当たり前だ。
でもまあ、遠目で見ると笑い話ではある。この一連の話をすると、聞く人はだいたいは笑う。「焦っちゃいけないね〜。ぜんぶ書に出てたんだね〜(笑)」だけど、みんな決まって最後にはこう言う。
「でも、なんだろう。その松浦くんって人、悪い人じゃない感じがする」
そうなのだ。その通りなのだ。
今回、松浦くんのスットコドッコイなところだけを抽出して書いた。でも、松浦くんの素敵なところを書こうと思えば同じだけの量を書けると思う。だから今回の記事は、松浦くんの行動を描写した話ではない。その出来事を、「私がどう見たか」の話である。
松浦くんとの出会いを通して学んだのは、出来事の意味はそのこと自体でなく、それをどう受け取るかの「心の姿勢」にあるということだ。
あの毛筆の恋文にしても、「こんなことしてくれる人、他にいない」「松浦くんってなんて特別なんだろう」って捉えることもできるだろう。だけど私は「感謝有り難し」のあの筆末が雑だったとか、そういうところを注視した。2人で行ったキャンドルナイトの、コンサートで歌われた『異邦人』を2人で聴いたあの時間の空気感を語ることなく、リサと3人で会った直後に松浦くんがリサを誘いまくったというその出来事を注視した。それは、現実がそうさせたのではない、「私の心が」そうさせたのだ。
それで私は今回をもって「マッチングアプリ最終章」とした。なぜかというと、これだけ素敵な人と出会っておきながら、そしてその人と「恋人になる」タイミングがたくさんあったのにも関わらず、依然として私は「感謝有り難し」のことについて心を向けた、それは、私自身恋人が欲しいとは本心では思っていないことの現れであると思ったからだ。
まったく。アプリで14人も出会ってやっとそのことに気付くとは。以前マッチングアプリ体験記で私は「その人の本心が見える瞬間が好き」「それを見たくてマッチングアプリをやっている」などと言ったが、私は己の心こそ見つめるべきだった…!
思えば、彼氏がほしいか分からないままにアプリ内をウロつくなんてそんなのはとんだ迷惑行為である。相手は月額を払っていいねやメッセージをくれてるし、「彼女がほしい」がゆえにアプリをやっているのだ。彼らの貴重なデートの時間や費用を、私は無慈悲に食いつぶした。あーあ、なーにやってんだかね。
しかし出会った14人を振り返ると、、私だって一人一人と本気で向き合ってはいたと思う。一度も、相手をむげにしたことなどなかったし、私は彼らの話によく耳を傾けた。オススメの本があると言われればそれをしっかり読んでからデートに行った!「学生時代のあの燃え盛るような恋を、僕は二度とできないのかもしれない」って言われて音信不通にされてさえも(笑)、私は彼の仕草や話し方を今でもちゃんと覚えてる。
「深い人間関係なんて付き合ってから築けばいい」と、ある男性はそう言った。だからその考え方に順応しようと試みた。しかし、やっぱり私はあの「感謝有り難し」のあの字の先に、人間関係は築けなかった。それは、意志とか意地とかじゃなく、私にとっての必然であった。
そうだ、そういえば私は4年前、アプリで初めて会った人に言われていたね。「あなたはアプリをやるべきではありません」って。
答えは最初から与えられていたんだ。
結局4年間アプリにあれだけの労力を費やしたのに、カタチになるものは何一つ残らなかったのだ。だれとも、指一本さえも触れなかった。何が残ったかといえば、まあ、これらの記事が残ったか…(笑)これも立派な「カタチ」ではある。
これらを通して私はいろんなことを考えたし、自分のことも発見できた。そういう意味では彼らと出会ったことは無駄ではなかった。彼らが、彼らの存在が、私の血肉となっている。私は14人によって私を発見し、それは私の一部となった。14人は、カタチとしてはすれ違って行ったけど、私はこれからも、彼らを引き連れて生きていく。記憶として、「私が私である」こととして。ああ、まるでキリストの使徒のよう…。
最後の晩餐
なんて神聖だろう。神々しいね。
しかしそれは目には見えない。はたから見れば、独り身、28歳女性がただポツン。


このまま神聖を守ってやろうか。
処女をつらぬいてやろーか!!!
以上です。
お疲れ様です。マッチングアプリ最終章、読ませて頂きました。相変わらず長文なのに読ませる文ですね。めちゃめちゃ面白かったです。
〉恋愛って茶番だよなぁとつくづく思う。
ここに全てが込められてるかと。あとFukiさんは賢すぎるんですよね…恋愛に関して生きづらい世の中なのは往々にして感じます。けれども世間一般の恋愛や結婚という現象は人間の脳が勝手に起こしてるバグ状態だと思うので、貴女という人間の価値そのものはその程度では下がりません。最後の晩餐のFukiさん、可愛い。「バガボンド」落ちてるし。
7月下旬は申し訳ありませんでした。あまりのタイミングの悪さにいろいろ考えてみたんですが、作家の1ファンでしかないのに図々しく会う為にいろいろ計画立ててたので罰が当たったのかな…と思うようにしました。笑
naokiさん、いつもありがとうございます!最後の晩餐、可愛いですよね(笑)14人の使徒の絵は一人一人を思い出しながら描いて、すごく楽しい時間でした。使徒が去った後には精神的につながろうとした茶番劇の残骸だけが残るというね…(笑)バガボンドも坂口安吾も今や私の血肉になっています。それはそうとご体調はいかがでしょうか?ほんとに悪いタイミングでコロナが来てしまいましたね、罰なんてとんでもない!また頃合いを見て松本旅行のご計画を立てられるものだと、普通に待っておりましたが。寒くならないうちにぜひまた来てください!歓迎いたします。
体調は8月上旬頃には完治しました。心配して頂き、ありがとうございます。コロナは2度とかかりたくないっす…泊まるの楽しみにしていた旅館もキャンセルしてしまいましたし、何よりFukiさんに会えなかった事が残念でした。また松本への旅行計画は立てようと思っていますのでその時は宜しくお願い致します(_ _)
良い記事でした。
端から見れば些細な追伸文?からあまりにも多くのものを読み取ってしまう、
そういう心の機微のようなもの、自分の直感を無視せず真正面から見据える感性が本当に素晴らしいと感じました。
私はエゴにまみれた人間ですが、フキさんのような人がいて、心の中を丁寧に文字にしてくれること、それを読めるのが嬉しいです。
ハルさん、ありがとうございます!ハルさんとは、もしかしてnoteでもよくコメントをくださるハルさんですか?いずれにせよ、いつもブログを読んでくださりありがとうございます。まさに感謝有り難しです(乱れ字でない)。私もエゴに満ちた人間ですよ〜、エゴエゴだから、結局自分のことしか書けないんだと思います。それでもそれを読んでくれて何かを感じてくれるハルさんのような方がいてくれて、ほんとうに幸せです。これからもよろしくお願いします。
丁寧なお返事ありがとうございます。
フキさんがそう仰るならフキさんにもフキさんなりのエゴがきっとあるのでしょうね。
私は男なので(これまで誤解させていたら申し訳ないのですが)恋愛上の男のエゴと女のエゴは性質が違うと感じているのですが、
俯瞰して見るとどっちもどっちで、男女のエゴは表裏一体の呪縛なんじゃないかとうっすら考えてます。
ただフキさんの感性は一瞬だけそんな呪縛から自分を解き放ってくれるのでそこが好きです。
〉気づいてくださりありがとうございます。
はい、実はnoteやYouTube時代から応援させてもらっていました。
重くとられないといいのですが苦笑
ハルさん YouTube時代(笑)から!こんな不定期で気まぐれなコンテンツについてきてくれてありがとうございます。重くないですよ!そういう方にこそ支えられていますから。今後もよろしくお願いします^ ^
>「私たちは、次は会わないんじゃないだろうか」
冒頭のこのセリフに、胸をなでおろしてしまいました。。。
無責任を承知で言ってしまうと、Fukiさんにはずっとこのままでいてほしいと思う気持ちが強いようです(苦笑)
大重郎さん そうですか、私は本気でアプリやっていたんですけどね!(笑)まあ責任とか意思とかとは関係ないところで物事は決定していくように感じます、今日この頃。引き続き展開を見守っていてくださるとうれしいです。いつもありがとうございます。
まいっちんぐアプリ!って感じですね。
表現が古くってごめんあそばせ!!とはいえ、このおばちゃんはマチコ先生のリアタイ世代ではありませんヨ念のため。
えっと。
最終章からが本番!と考えてよろしいでしょうか??((o(´∀`)o))ワクワク
尾田栄一郎さんに言ってるのではありませんヨ念のため。
ご本返しそびれており、本当に申し訳ございません。
気にかけており大事に保管しておりますが、このところご実家方面へ行く機会がなく
心苦しいばかりです。。。
Qたろさん まいっちんぐ!とはいいですね。一般的な言い方なんでしょうか?使っていきます笑 本のことは、全然お気になさらず!古本ですし、私も再度読み返すことも当分ないですので。受け渡し北松方面でもいいですのでね!また気が向いたらお声かけください〜。
これまた良い記事。カタチにしてくれてありがとう。得るものあります。
松浦君、いいやつだね。いいやつと言うか、松浦君のさまざまな行動を理解できる。というのも俺自身も普通に自分の性を受け入れている普通の男子なので。
ただここに書かれているフキちゃんの心理も、詳細に書いてくれているのでおおよそ理解できるし、自分にとっては学びです。
京都アニメーションの作品が好きで、よく見るんだけど。単純にオスとメスがくっつくみたいな話じゃなくて、友情からの同性愛?その手前?とか。尊敬の中に含まれる愛とか。色んなパターンの愛が表現されているようで、おしゃれだな~と思いながら見ることが多いんだけど、最近は「響け!ユーフォニアム」を見ながら何度もこの記事が頭をよぎっていたのでついにコメントしちゃいました(笑)
しかし、フキちゃんの”筆跡から相手の心理を読み解く能力”すごいね。
ちょっと怖いくらい冴えてる。
どんぐり気になってたので今度行ってみます。
カツヤさん コメントありがとうございます!得るものがあってよかったです。松浦くん、いい奴なんでしょうね。連絡取らなくなって長いですが、たまに彼のことを思い出します。使徒ですからね(笑)…笑えない。カツヤさんけっこうアニメ見られるんですね。「響けユーフォニアム」気になります、チェックしてみます!どんぐりは、パルコの閉店と同時に閉店という話もあるので、機会がある限り早めに行ったほうがいいかもしれません。オススメです!