松本深志高校とはどんな場所なのか。「知性」にも種類があると気づいた日のこと。

 

 

 

私は長野県の松本深志高校という高校に通っていました。(‘14卒業)

 

松本深志、といえばここ長野県では有名な進学校で、県外からわざわざこの高校に来ることは滅多にないけれど、長野県中部に住む公立中学校の生徒で学年成績上位の子の多くがこの高校に進学すると思ってくれていい。

(私は運良く入学できたものの、しかしこの高校の中ではずーーっと底辺中の底辺を這いつくばっていたオトボケ女でした。物理4点とかね。トホホ。)

 

 

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画像:松本深志高校同窓会HPより

 

 

今日は私がこの高校で過ごした3年間で見たもののことを書こうと思います。そこには、どんな子たちがどんなふうに過ごしていたのか、ということ。

 

 

✳︎

 

まず、どんな子たちがいるのか。

「勉強ができる」「優等生」というとこんな感じの子を想像するかと思います。

 

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私も深志に入学するまでは、この高校にはこういう子たちがいっぱいいるのだと思っていました。勉強ができるということは何か性格的に欠点があるんじゃない?めちゃ変わってるとか?

 

 

…いえいえ、、そうとも限りません。驚くことに、「スポーツもでき、人望があって、青春を謳歌し、文字通り、なんでもこなしてしまう人」がいるのです!これは入学して一番初めに驚いたことです。

 

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頭よし、人望あり、バレー部のキャプテンで、長野県美少女図鑑に乗ってしまった女の子もいた。まじにいた。

 

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なにが勝てるというの。

 

 

 

 

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まあもちろんこういう子の方が多数だが。

 

 

 

しかし思い返せばあの場所には、頭が良いならではの面白い人がたくさんいた。思い出せるエピソードをいくつかご紹介します。

 

 

例えば、クラスの三島くんの話。

年間行事である、全校クラスマッチを控え、クラスでお揃いのユニフォームを作ろうという話になった。ホームルームの時間にクラス長より説明があった。

 

「うちのクラスでもクラスTシャツを作ろうと思っています。デザイン候補はいくつか出してありますので、投票にて決めましょう。一応、確認なのですが、クラスTシャツを作るということでいいですか?反対の方、いらっしゃったら挙手お願いします。」

 

 

 

すっ

 

 

手を高々と挙げたのが、三島くんだった。ただひとり。

 

 

 

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「必要性感じないです。なぜ他のクラスが作っているからと言ってぼくたちも作らなければいけないのですか。」

 

 

クラスから血の気が引いた。

「ま、まあ、確かにそういう意見もありますね…。ごもっともだと思います、ハイ…」とルーム長。ごもっとも、なのだ。反論できる人はだれもいなかった。

 

まあ、結局賛成多数ということでTシャツは作ることにはなった。ホームルーム終了後、三島くんの仲の良い友だちが駆け寄り、「お前なぁ、ああいう場でああいうこと言うなよ。わかるだろ。なぁ。」とたしなめていたのを見た。三島くんは我関せずという感じだった。

 

思い出すたびちょっと笑えてしまう思い出である。

 

 

 

ほかには、同じクラスにいたクイズ研究会の原田くんの話。クイズ研究会といえば例年全国大会にも出る、我が校では名門部で、原田くんもやはり頭が良かった。テストでもいつも上位をキープしていたと思う。

 

さて英語の授業中。退屈だったんだろう、原田くんはぼーっとしていたのかな?先生に注意を受けていた。

「お前なぁ、集中しろ。そんなんじゃだめだぞ。それならな、お前、これ発音してみろ。」

と言って先生は、黒板に二つの単語を並べた。

 

raise

rise

 

「お前これ、読めるか?正しく発音できるか?」

 

 

 

すると原田くんは、眉ひとつ動かさずに瞬時に答えた。

「レイズ(raise)、ライズ(rise)」。

 

 

「…う、うん、、正解だ。分かっているならいい…。」

 

あの原田くんの、きっぱりとした発音と、何も言い返せない先生のやりとりがやけに印象的だった。なんであのとき、先生は彼に無駄に喧嘩を売ったんだろう。。

 

 

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そりゃこうなるでしょう。

 

 

 

 

「オタクにちゃんと地位があったのがあの高校のいいところだよね。」

 

最近、10年ぶりに会った高校時代の友人が言っていた。

ああ、いたいた、いろんなおたくが。ガチの電車オタク、将棋オタク、地学オタク、哲学おたく(笑)、、、

 

「オタクってさあ、社会にとって財産なんだよね。そういう人がいるから社会は進歩するからさ。そういう人がのびのびと存在できるのが深志の良いところだったと思うよ。」と彼女は言っていて、なるほどなぁ、と思った。

 

まあ結局のところ、あの場所には実に色々な子がいたのだ。

 

しかし勉強ができるという共通点があったから、私たちはお互いに一応の「リスペクト」をしていたというか、静かに流れる「信頼感」みたいなものが確かにあった。だからあの学校に、「変わり者としての疎外感」とか、ましていじめとかいうものはなかった。

 

 

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ちなみに全国集会でも、生徒は整列をしない。ただ集まる。(それが深志のモットーとするところの、“自治の精神”、らしいw)

 

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今思い出すとあの高校は、皆それぞれに自立した子たちが集まったすてきな場所だった。

 

 

 

しかし私が当時あの場所で得たものといえば、深い深い劣等感である。

 

なぜならわたしは彼らに「何ひとつ勝てなかった」から。勉強では、もちろん勝てない。そしてそれ以外でもカリスマ性を持った人と比較するまでもなく、容姿にしろ個性しにろ、わたしはあの中で特に秀でたものは持っていなくて、他の人に誇れるものはひとつもなかった。劣等感・劣等感・劣等感の塊で、私は深志生であること以外に何をもって「自分」を打ち出せるか、さっぱり分からなかった。

 

 

スポーツも勝てなかった。剣道部に所属していたが、わたしは全くと言っていいほど活躍できなかった。

 

だから私はこの高校を卒業してもなお、「勉強ができるほどエライ」「うまくやれる人はスゴイ」「わたしはダメ」「凡人以下」という価値観から抜け出すことはできなかった。みんなは青春も勉強もちゃんとやって、やっぱり名門大学とか医学部に進学していく。私はそれらが満足にできなかった。

 

結局、あの場所は私には「身に余る」場所だったのだ。深志高校にいる間、「私はここにいるべき人間でない」、という不安感をずーっと抱えていた。

 

 

✳︎

 

 

しかし、高校時代のある友だちの言葉に、私の考えは覆されることとなった。

 

彼の名は高田くん。同じ学年に在籍していた子だったけど、彼は高校一年生のときに高校を退学してしまった。高校中退後、高卒認定試験を受け、イギリスの大学を卒業しただとか。最近、ほぼ10年ぶりに彼と会った。

 

 

 

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「どうしてあのとき深志やめちゃったの?」と聞くと、

 

「もともとインターナショナル高校に進みたかったけど、親に反対されて仕方なく深志に来た。『学校』への違和感みたいなのが小学生の時からあってさ、小学校も、中学校もやっぱり嫌いだったね。中学生時代なんて特に退廃してたよ。後半、学校に行けてすらなくて、ほぼ引きこもり笑」

 

「そ、そうだったんだ。。」

 

「深志に来たことは本意じゃなかったけど、内心、深志に来れば頭いい奴らがいて、面白い人もいるんじゃないかって期待してた。先生も、生徒もね。…でも、、結局一緒だったよ。正直がっかりした。」

 

 

 

彼は、テスト用紙を白紙のままにし、代わりに裏面にびっしり作文を書いて提出しちゃうような子だった。トンボ(深志高校の校章のシンボルである)を串刺しにした絵を描いて提出しちゃうような子だった。

 

「そういえば、あのとき作文に何を書いたの?」

 

「えー忘れた。たぶん、本質的な『学び』というものについて、とかだったと思う。日本教育は情報処理にばっか偏りすぎていて、これは能動的な学びとはいえない、とか、いろいろ。おれあん時トガッてたなwwよく考えると。」

 

 

 

そして彼はこう言った。

 

 

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「俺は深志が嫌い。今でも嫌い。そこにいるやつらが大嫌い。みんな、その頭の良さを社会のために使おうとしていない。結局、良い大学出て良い就職先を見つけて、型通りの人生を手に入れる。なんかさぁ、、なんていうのかな……もうあるんだよ。『価値』が。これ、わかる?すでにそこにある価値なんだよ。そこにはまることをいつまで経ってもやめないんだよ。どいつもこいつも、、、そう、「保身」!!保身のためにしかその頭を使えないなら、それはマンモス追いかけてる時代からマインド変わってねーんだよって話。…おれはやっぱり、深志が嫌い。」

 

 

 

 

おどろいた。

 

私は彼のその言葉にこう思わされた。

 

 

 

「ああ、世界には、わたしの知らない『知性』がある。」

 

 

 

 

高校を出て、10年近くも経ってから、ようやくそのことに気付かされた。私は今の今まで、「テストで良い点数を取れること」が「頭の良さ」だと思っていた。今の今まで、「うまくやること」の器用さが、賢さの証だと思っていた。

 

もちろん高田くんは頭がいい。深志の中でも勉強ができる。しかし彼は、頭が良いからこそあの場所を去った。

 

思い返すとあの場所には、入学式当日から金髪だった子たちがいた。授業に出ずにサボってばかりいた子たちがいた。あの校舎を去って行った子たちも、案外少なくなかった。高田くんを見ると、彼らは、日本の学校教育からズレてしまう、しかし違う種類の知性の持ち主だったのかな、と思う。そしてこういう子は、なにも深志じゃなくたっていっぱいいるはずなんだ。

 

「深志出身です」というと地元では「すごいね」と言われ、一概に「頭いいね」と言われるけど、ほんとはぜんぜん違う。

 

知性、とか、頭の良さにも種類があることを、世間の人はみんなあまり知らない。「勉強ができるかどうか」だけでは計り得ないものが、山ほどある。高田くんのいうところの、「価値」、というもの。

 

 

私もあの高校が、大好き、というわけではない。どちらかと言えばあそこで過ごした日々は苦痛だったから。…でも、今もう一度、あの場所に戻ったら、私はまたぜんぜん違う目で彼らのことを見れると思う。私自身のことも、もっと大切にできたと思う。劣等感にまみれ、私はあそこで青春という青春を過ごせたようには思えないけど、もう一度戻れたらな。彼らと、何かを分かち合えたかもしれない。

 

 

戻れたらな

 

 

 

 

 

……っいや、やっぱいいや!!!高校時代に戻るのは!

微分、積分、mol濃度、、部活、放課後、受験、、、自我、承認欲求、定まらない身体、心のゆれ、いろんなぐちゃぐちゃ、、ああ、考えただけで青春の成分ってキッツい!!!!!

 

 

はぁ、つくづく、大人になってよかったなぁと思う。価値も選択も自由な世界。受験勉強やテストのない世界。今それと戦っている子たちには、「人生は大人になってからの方がずっと面白いんだよ」って教えてあげたい。そして、勉強ができなくったって別にいい、知性にも種類があるんだから、って伝えたい。あなたが信じられる「価値」を、あなたが自分で見つければいい、と、伝えてあげたい。はらりほろり。

 

 

 

 

 

 

 

 

2件のコメント

フッキーちゃん、高田君を語ってくれてありがとうございました。高田君のMumです。これからも高田君の良きフレンドでいてください。
高田君もポジティブに生きていますが、フッキーちゃんもとても素敵です。
これからも自分らしく歩んでいってください。

こんにちは!コメントいただけて光栄です!
わたしは彼の存在・言葉・行動に、本当に特別な刺激を受けております。
彼のような人と出会えたことは、あの高校に行って良かった理由の一つです。
唯一無二の才能と個性を持った友達。これからもずっと応援しています!!
ありがとうございます^ ^
私もポジティブに邁進していきたいと思います!

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