マッチングアプリ体験談③「恋愛はシステム」

 

 

丁寧そうな人だなぁと思った。

 

 

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日曜日の朝、カフェで待ち合わせした。相手は33歳の小学校教諭。マッチングアプリで今まで会ってきた人の中でも、特に大人っぽいひとだなぁ、と、これが第一印象だった。彼の名前はさとしさん(仮名)とする。

 

 

フキ「…いい天気ですね」

さとし「ですね。今日はいつもより暖かいですよね」

フキ「え?そうですか?…そういえば、今朝は外にある飼い犬の水桶の氷がいつもより薄かったかもしれません」

さとし「そこ、気温の指標なんですね(笑)」

フキ「はい(笑)毎朝水を替えるのが習慣なので。年末年始なんかは特に寒かったので桶まるごとガチガチに凍ってましたけど、今朝は手で割れるくらいの厚さでしたね」

 

初対面だというのに初っ端から天気の話をしちゃって大丈夫かなぁと思ったけど、まぁいい。私は珍しく緊張していた。私たちはそれぞれトーストとパンケーキを注文した。それでしばらくはありきたりな話をした。出身地のこと、仕事のこと、大学で何を勉強してたとか、休日は何をしてるかとか……。

 

 

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さとし「フキさんは、恋愛の方はどう?」

フキ「ああー……実は恋愛自体あんまり経験がなくて。アプリでも何人かと会ったりもしてるんですけど、特にお付き合いするとはならなかったですね」

さとし「そうなの?恋愛に興味ないの?」

フキ「いえ!恋愛をしたいな、とは思います。アプリで会った人たちもみなさんいい人でしたけど、付き合うかって言われると、ピンと来ないというか。経験がないというのもあるんでしょうけど、私は恋とか愛とかいまいち分からなくて……」

さとし「考えてだけいてもしょうがないよ。フキさんは一度誰かと付き合ってみたらいいんじゃないかな?実際やってみて初めて開ける扉もあると思うよ。おれも実を言うとさ、初めて付き合った人はそこまで好きって人じゃなかったんだよ」

フキ「へぇ。そうだったんですか」

さとし「うん。それでも、何事も経験だと思ってね。あの経験があったからこそ知れたとこがいっぱいあったよ」

フキ「そうですか……」

 

 

さとし「じゃあフキさんは、今まで言い寄って来てくれた人、全員お断りしてきたってこと?」

フキ「はい。まあ、そもそもそんなに多くもないですけど……。いちばん最近で恋愛っぽくなった方は、何回かお会いしたんですけど、いざ恋愛関係になりましょうって段階になって私の方がよく分からなくなっちゃって。結局それから会わなくなっちゃいましたね」

さとし「なんで?何回か会ったんならそんなに嫌じゃなかったんでしょ?」

フキ「うーん…なんでだろう?たぶん、彼の情熱との温度差があったというか。彼は『燃え盛る情熱を今この瞬間に燃え上がらせろ!!』っていう考え方の人で。『恋愛っていうのはそのドキドキを楽しもうってだけなんだから、愛とか恋とかいうのとは関係ない、ただドキドキがあるだけなんだ。そこに身を任せないでどうするんだ!!』って言ってました」

さとし「うわー、すごくよく分かる。おれもどっちかっていうとその考えに近いかな」

フキ「そうなんですか?うーん、彼の言ってることも一理あるんですけどね…。でも私、愛ってワンちゃんみたいなものだと思うんです」

さとし「……ど、どっちがワンちゃん?(笑)」

 

 

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スゴく困った顔をさせてしまった…。

 

 

フキ「どっちもです。関係性を、時間をかけて育むものというか。例えば犬を飼うとき、ある人はペットショップに行って犬を選びますよね?選ぶときは、小型犬がいいな、毛は短い方がいいかも、毛の色は黒がいいな、とか。そうして選んだ犬と5年、10年とかけて家族として一緒に暮らしていく。するともちろんその犬を愛するんですけど、愛する理由は『小型犬だから』『毛が黒いから』じゃなくなる。時間をかけただけの愛があるから、その犬を愛するんですよね。すると、もし最初にペットショップで選ばなかったとしても、例えば捨て犬を拾ったり、保護犬を引き取ったとしたとしても、結局その犬だって同じ愛に行き着くことになると思うんです」

さとし「うん」

フキ「私は、そういう愛の方が信用できるなって思うんです。だから言っちゃえば、どう出会ったかなんてそう大切なものではなくて、だれかのことを好きになったり大切だと思うようになるのは、その人とどれだけ一緒に過ごしたかの時間と量だと必要だと思うんです。こういうこと言うとウジウジした女々しい奴だと思われるかもしれないんですが」

さとし「時間、かぁ。女の子はよく言うよね」

フキ「はい。だから皮肉なことに最初どんなに好きじゃなかった人だとしても、時間をかけるほどに好きになる可能性が出てきてしまいますね。今、2年間くらいこまめに連絡をくれたりしてくれる人が一人だけいるんですけど、彼とお付き合いしようって可能性は今のところ10%ですけど、でも、彼がこれをあと3年続けてくれたらたぶん50%くらいにはなっちゃうんですよ」

さとし「ご、5年続けてやっと50%!?」

フキ「いや、数字の問題じゃないんですけど……。どんなに『ナシ』の人でも5年続けてくれたら可能性が出てきちゃうって話です」

さとし「5年かぁ」

フキ「はい。この話をその、さっき言った、結局会わなくなっちゃった人にも話したことがあって。そしたら彼は『おれは5年は無理』って言ってました」

さとし「おれも5年は無理だな」

フキ「そうだ、彼もブログを書く人なんですけど、その会話の様子を彼が記事にしてくれてありますよ。よかったら読んでみてください。男女の性質の違いがよく表れていると思うんです」

 

 

男「セックスしよう」

女「は?」

男「セックスしよう」

女「……」

男「俺たちはまだ2回デートしただけだ。ちょっとスポーツして、ちょっと散歩して、プラトニックなことだけしてきた。ただ、やっぱりこんなことを続けていても、ぜんぜん進捗があるような気がしないね」

女「はぁ」

男「もっと自分をさらけ出して、踏み込んでいかなければ恋愛なんてできっこないんだ。どうしてそんなに怖がっているんだ。ただマンコの中にチンコが入るだけじゃないか、みんなやってるじゃないか。何を失うっていうんだ? そんなに減るものなのか?」

女「……」

 

引用:『セックスしよう

 

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さとし「えっとごめん!おれが真面目に答え過ぎたわ。まさか相手がこんな狂った奴だとは思わなかったわ」

フキ「いや、彼は狂ってなんかいませんよ。ただすごく正直な人だと思いました」

さとし「じゃあその人と付き合えばよかったじゃん」

フキ「うーん、いや……彼とは精神的に繋がれると思ったんですよ」

さとし「『精神的に繋がる』かぁ。どっかで山ほど聞いた言葉だ」

フキ「でしょうね。……だからいきなりセックスと言われて引いちゃった部分があるのかもしれません。裸になって初めて分かり合える類のものがあるということは分かります。だとしても、それってすごく突飛じゃないですか?なんていうか……話して、会って、じゃあさらけ出しましょう裸になって、って、手を繋いだこともない、相手の匂いも知らないのに、いきなり『さぁセックスを』って言われても、どうも不自然に感じるんですよね……。相手のことを知る途中段階って、もっといろんなものがあると思います。私はセックスとかなんだとか、そんなに悪いものとも思いませんけど……別にそれは最後の最後でもいいはずです」

さとし「……まあ、そうやって考えてるだけじゃいつまで経ってもらちがあかないよ。頭で考えるより感じた方が早いこともあるよ。フキさんは一度だれかと試しに付き合ってみればいいよ」

フキ「試しにって……そんな軽いもんですか」

さとし「そうだよ。一回付き合ってみてさ、嫌になったら別れればいいじゃん。『ああこいつセックス下手だなぁ!』とか」

フキ「そんな話はしたくないんですけど」

さとし「そんな話を君はさっきからしてるけどね(笑)」

フキ「……」

 

 

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さとし「いや、愛だ恋だって考える気持ちも分からなくはないよ。でもおれはもう34になるわけで、なんかそういうのをもう諦めたって言ったらあれだけど、ちょっと切り捨ててる部分はあるよね。おれ、将来、日曜の午後に奥さんと2人で餃子を包んで、夜に映画観ながらゆっくり食べるってのをやりたいんだ。その夢を叶えるためにもそろそろパートナーを見つけなきゃいけないんだよね。わりと時間がない。で、今はもう恋愛をある程度『システム』だと思ってやってるよ」

フキ「システム?」

さとし「うん。もちろん付き合ってから関係を築く段階では全部がシステムではないけど、会うまではシステム的に効率よくやるしかないよ。特にアプリだと、これは完全にゲームだね。色んな人に“いいね”してみて、何人かからは“いいね”が返ってきて、で、その後のメッセージの会話なんてだいたい一緒だよね。システム的に、当たり障りのない会話して、『お、こっちから返信来た』『次はこっち』って。ホイホイ!って。スマホアプリの、ハンバーガー屋さんのゲームやってるみたいなもんだよ。それで何人かは途中でフェードアウトするけど、何人かはタイミングを見て『今度ご飯行きませんか?』と送ってみる。それでOKしてくれた人と実際に会う。そんで1〜2時間話す」

フキ「で、こうシステムの話をすると」

さとし「いや(笑)システムの話はフキさんが変わり種を持って来たから話してるだけだけど」

フキ「そうですか」

 

 

 

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さとし「それでおれはそのあと何回も会って、付き合うか?どうですか?どうなの?ってグダグダしたのを無駄に続けたくないな。会いました、おれと付き合ってみますか?OKなら付き合う。ダメならそれまで。こういうカラッとした考え方する女の子も案外いるから、おれはそういう人と出会えればそれでいいよ。で、本当に自分をさらけ出すのはそこからだと思ってる。やっぱ、恋人として抱き合って、肌を感じることで初めて開ける類のものも確かにあるから、そこからはもうさすがにシステムの話じゃなくなってくるね」

フキ「なるほど、じゃあ、付き合うまでは『システム』ってことですか。それは分からなくもないです。マッチングアプリでは出会いがゴロゴロ転がってるわりに、実際会ってみないと何も分からないですからね」

さとし「そうなんだよ」

フキ「でも、なぜ自分をさらけ出すために“付き合う”ことが前提なんですか?なんで必ずしもセックスをしてから扉を開こうとするんですか?自分のことを誰かにさらけ出したいなら、もっと前からさらけ出してもいいじゃないですか」

さとし「……」

フキ「そもそも、みんな最後には自分のことをさらけ出したい、だれかに知ってほしい、理解してほしいって思ってるはずです。なのに最初から何かをさらけ出そうとしている人って少ないです。アプリでは特にそうですよ。男性のプロフィールを見ると、驚くほどみんな『鬼滅と焼肉が好きです。趣味はアウトドアです。よろしくお願いします』って言ってますからね」

さとし「そうなんだ(笑)」

フキ「そうです。おまけにもっと酷いことに、こっちのさらけ出したものを拒絶したりもします。例えば私は少しYouTubeで配信してるんですが、メッセージの中でその動画を送ることもあるんです。すると多くの人はブロックしてきますね」

さとし「送っただけでブロックされるんだ(笑)」

フキ「はい。これってフェアじゃないですよね!少なくともみなさん自分に興味を持ってもらいたいんでしょう?じゃあ私もあなたのことを知ろう、と思うんですけど、みんな揃いも揃って『最近Netflixにハマっています!休日にはよくドライブに行きます!』なものですから、さすがに無理があります。だから私は最初から顔を出して、生身でしゃべって、自分の考えていることをありのまま見せますから、あなたも自分のことをもっと差し出してくださいって言ってるんです。なのにそれすらブロックするっていうんじゃ、ぜんぜんフェアじゃないじゃないですか」

 

さとし「じゃあフェアにするにはどうしたらいいの?」

フキ「そっちもYouTube送ってこいやって話です(笑)」

さとし「いや!でもさ、人にはそれぞれに得意分野があるじゃん?フキさんはそうやってYouTubeで喋ることができるかもしれないけど、それはみんなができることじゃない。おれは小学生に授業ができるけど、フキさんにはできない。それと同じ」

フキ「……YouTubeはものの例えですけど」

さとし「言いたいのは、フキさんがYouTubeでさらけ出した自分を受け止めてほしいって言うんなら、相手のさらけ出そうとすることも受け入れる気持ちがなきゃいけないんじゃないかなぁ?ってこと。でもフキさんはいつもそれを拒否してきた。それじゃこっちがさらけ出そうとしてもできないんじゃん」

フキ「ふーん、じゃあ『フキさんのできることはおれにはできない。代わりにセックスならできるからとりあえず付き合って!』ってことですか?」

さとし「……」

 

 

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フキ「フキさんがYouTubeで自分をさらけ出すなら、よし分かったおれは裸になって自分をさらけ出すから受け入れてくれ!って言うんなら、そんなふざけた話ってなかなかないです」

さとし「でもまあ、実際そうなって初めてさらけ出せる心の部分があるんだよ。フキさんには分からないかもしれないけど」

フキ「そこじゃない心の部分をぜひとも育ててほしいものです」

さとし「……あのさぁ! フキさんにはフキさんの考え方があると思うけど、でもね、人はみんな違うんだよ。違う人間同士が2人の関係を築いていくことは、お互いに違うところをすり合わせていくということだから、少しの我慢や妥協があって当然じゃん。フキさんがさらけ出した自分を受け入れてほしいって言うんなら、その代わり相手がさらけ出そうとしているものも受け入れなきゃって話だよ。『あなたのことを全て受け入れるかどうかは分かりません。でも私のことは受け入れてください』って、あまりにもわがままだし辻褄が合わないよね」

フキ「……」

さとし「おれは今まで何人かそう言って恋に奥手になる女の子を見てきたけど、そういう子は大抵どっかで主張に整合性が取れないところが出てくるね。そんなんだから彼氏いなかったんじゃないのって、まぁ、どこかで思っちゃうよね」

フキ「……」

さとし「……まあ、あくまで俺の考えだけど」

フキ「……」

さとし「……」

 

 

 

 

 

窓の外では雨が降って、、、

 

なかった。

 

 

 

 

 

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ピーカン晴れてたよ。

 

フキ「……私、ジブリ作品の中で、『崖の上のポニョ』がいちばん好きって言ったじゃないですか」

さとし「うん」

フキ「やっぱ私は、ああいう愛のあり方に安心するんだと思います。『宗介のこと好き!』『ぼくも好き!』ってそれだけで、そこには性愛とかセックスとか、ないじゃないですか。純粋な『好き』。私が究極求めているのはそういうものかもしれません」

さとし「……ピュアなんだね、ほんとうに。そっかそういうところを、フキさんはもう完全に、ギュッて持っちゃってるんだね」

フキ「……」

さとし「ほんと、考えててもどうにもならないからさ。一度だれかと付き合ってみなよ。嫌だったら別れればいいんだしさ。ね」

フキ「……」

さとし「で、その相手がおれでよければどうぞ、って話」

フキ「はぁ、ありがとうございます、でも……」

 

 

 

そのあと彼から「またぜひ」との連絡が来たので、よく考えて、こう返信した。

 

ありがとうございます。私もお会いして楽しかったので、単純にまたぜひお話ししたいなという気持ちはあります。けど、私は恋とか愛とか分からず、そういう半端な姿勢でお会いするのも良くないのかな、、まあ、それでも会っていただけるか、そこの判断はお任せします。でも、これでは無責任ですね。すみません、むずかしいです。

 

 

彼からの返信はなかった。

 

 

 

うーん、システム。

 

 

 

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ブログの更新が滞っておりまして大変申し訳ありませんでした。。お久しぶりです。

最近はもっぱら漫画ばかり書いています。

次のブログの更新も先になるとは思いますが、まあ、思い出した頃にちらっと覗きに来てください。更新されなければ、漫画やってるんだなぁ、と見守っていていただければと思います。

 

いつもありがとうございます。

 

 

 

2件のコメント

男性のプロフィールを見ると、驚くほどみんな『鬼滅と焼肉が好きです。趣味はアウトドアです。よろしくお願いします』って言ってますからね

思わず笑いました(苦笑寄りに)何も書いていないのとほとんど同じですね、透明。

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