漫画家・岡崎京子さんのこと。
この世では
何でも起こりうる
何でも起こりうるんだわきっとどんなひどいことも
どんなうつくしいこともー岡崎京子『pink』より
漫画家・岡崎京子さんをご存知ですか?
1980年〜1990年代を代表する作家と名高い漫画家で、彼女の作品は今でも多く再版・映画化されています。代表作は2012年に映画化された『ヘルター・スケルター』、また『pink』や『リバーズ・エッジ』など。
彼女の作品のテーマは高度経済成長期の日本にみる「資本主義社会」、そしてその中に生きる若者の「愛」や「性」について。
漫画という表現がなされながら、詩のような小説のような音楽のような、独得の空気を纏った作品が印象的です。彼女の作品は時代をリアルに象りつつ、今なお社会にとって必要で、普遍的なメッセージが含まれているような気がします。
今回の記事では、彼女の代表作のいくつかを解説するとともに、名言を抜き出してご紹介します。気になった作品があれば、ぜひ書籍や映画で楽しんでみてください^ ^
漫画家・岡崎京子の経歴
1963年 東京都世田谷区に生まれる
高校時代から各雑誌へイラスト・漫画の寄稿を始め、漫画家としてデビュー。のち十数年にわたり数多くの作品を描き続ける。
1996年 交通事故に遭い重傷を負い、事実上、作家生命を絶たれる。休筆後、彼女のファンは依然として多く、今でも数多くの作品が復刊されている。
▽映画化された作品も多い。
- 『ヘルター・スケルター』(2012年公開)
- 『リバース・エッジ』(2018年公開)
- 『チワワちゃん』(2019年公開)
- 『ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020年秋公開予定)
岡崎作品5作品を厳選してご紹介
以下では、岡崎京子の代表作であり、かつ私が個人的に好きな作品を、名言&私が著書から抜き出して模写したイラスト付きでご紹介します。岡崎京子さんの作風の雰囲気がよくわかると思います^ ^
作品①『リバーズ・エッジ』
あらすじ
女子高生の若草ハルナは、彼氏の観音崎にいじめられている山田一郎という同級生を助けたことをきっかけに、彼から秘密を打ち明けられる。それは河原に放置された人間の死体だった。
世の中みんなキレイぶって、ステキぶって楽しんでるけどざけんじゃねえよって。ざけんじゃねえよ、いいかげんにしろ。あたしにも無いけどあんたらにも逃げ道ないぞ、ザマアミロって
本作品では、90年代の日本を舞台に高校生の青春が描かれている。工業化が進み、社会の隅々まで管理下される世の中と、その中に取り残された若者の、人間の「生」と「死」をめぐる物語。
扱う題材が題材なだけあって、作品全体は暗いイメージだけれど、私はその「絶望」の中に、どこか温かさを感じました。それは、主人公ら高校生の抱く世の中への不満や鬱屈感こそ、大切なものを見失いかけている社会において、ほんとうは「まっとうな」ものであるんじゃないかな、という共感があるからでした。
どこか病魔を抱えた社会と、その片隅に真っ直ぐに生きる若者の、《生きることへの欲望》と《生きることの絶望》を感じられる作品。
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当作品は、2012年に同名『リバーズ・エッジ』として映画化されていますが、こちらもかなりおススメです!原作の雰囲気をそのままに表現した、すばらしい映画です。
主演は二階堂ふみ・吉沢亮。サイコーでした。
もしかしてもうあたしはすでに死んでて
でもそれを知らずに生きてんのかなぁと思った
ぼくは生きている時の田島さんより
死んでしまった田島さんの方が好きだ
ずっとずっと好きだよ
落ちた枯れ葉を見るがいい
涸れた噴水をめぐること
平坦な戦場で
僕らが生き延びること
作品②『pink』
あらすじ
主人公のユミは一人暮らしのOL。父とは疎遠で、財産目当てで彼と結婚した継母を、母として認める気になれない。また、ペットのワニをとても大事にしており、餌代を稼ぐため夜はホテトル嬢として男性の相手をしている。そんなユミは継母の愛人で大学生のハルヲと付き合い始める。
最近東京でも空がキレイよねぇ
それってフロンガスのせいらしいよ
オゾン層のハカイがすごくて
空気がどんどん薄くなってって
それで星がよく見えるんだって
資本主義の社会の中で歪んでしまった「愛」と共に生きる女の子のお話です。主人公ユミは自己破壊的に過度な〈労働〉と〈消費〉を繰り返します。そしてその愛情と消費のはけ口であるのが、ペットのワニとの生活。〈消費〉することが一番の「愛」であった時代の物語です。
一見ポップでユーモラスな物語が「絶望」を語るという、岡崎京子ならではの世界観が存分に味わえる作品。本の絵や丁装がすごく可愛いので、誰かへのお誕生日プレゼントなんかにおススメです、個人的に。
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お金でこんなキレイなもんが買えるんなら
あたしはいくらでも働くんだ
つまんない仕事も Bランチの毎日も
あたし平気 関係ないもん
だって 私にはワニがいる
強くて冷たくて 何でも食べちゃう
ちっちゃな恐竜
どこか どこか
どこかに行きたいな
でも「どこか」ってどこ?
作品③『TAKE IT EASY』
あらすじ
岡崎京子の初期作品、下町日常系・ボーイ・ミ―ツ・ガール物語。主人公は、浪人のくせに勉強に身が入らず、無為に日々を送る弥七(やしち)。キレイになった幼なじみや、人生を順調に進める同級生を片目に、焦りと、空回りする理想を抱え、弥七は浪人生活を過ごしていく…。
オレ 愛に生きようかな
何もいい大学や会社入ったからって
いい人生送れるとは限んないし
やっぱ 愛だよ
溢れるばかりの「青春」を抱いて、しかしそれを無為に過ごすしかないという。だれもが一度は感じたことがあるであろう、青春ならではの「焦り」や「葛藤」、「不甲斐なさ」が爽やかなタッチで描かれた作品です。何にでもなれるはずなのに、何者にもなれない。青春のあの頃の空気感。
前にご紹介した2作品ほどテーマがシリアスでないので、後味良く読み切れる一冊だと思います。同冊にはこの他に短編4編も収録されています。
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死人に口なしってゆーけど本当だよな
生きてんのと死んでんの
どっちが楽なんだろ
おしえてくれよニィちゃん
あたし そこらへんのおばあちゃんも ガキもキリンも
道歩いてくイヌもネコも ペンペン草も好き
そして同時に大嫌いよ
みんな大嫌いよ 死んじゃえばいいんだわ
オレだったら アラスカに行きたい
いいだろな 冷たくて寒くて
白くて何もなくて
作品④『チワワちゃん』
あらすじ
東京でありったけの若さを謳歌する男女のグループ。そのマスコット的存在だった〈チワワちゃん〉が、ある日バラバラ遺体となって東京湾で発見された。残された仲間たちはそれぞれがチワワとの思い出を語り出すが、分かったことは誰もがチワワの本名も境遇も本性も知らなかったということだった。
あなたがこれから向かうところは
わたし達がやってきたところ
〈チワワちゃん〉の死後、友人らへのインタビュー形式で知らされる彼女のこと。青春を生きる若者らの、虚無感、苦悩、儚さが描かれています。
2019年に映画化された際には、ストーリー設定は変えないまま、舞台を21世紀の「現代」に移して物語がリメイクされています。ポップかつきらびやかに描かれた当映画は個人的にオススメです。門脇麦・村上虹郎ら実力派俳優をずらりと揃えたキャスティングに痺れます笑
本著には、『チワワちゃん』他6編の短編が収録されています。
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だあれも あたし達のいうことなんて 聞いちゃいないわ
だって みんな忙しいんだもの
あれや これや ご立派なことや
どうでもいいことで
あーあ もっと普通に死にたいなー
ただたんに 生きたいなー
あーだこーだ 言葉のピンで止められないで
きっとみんな退屈しているんだよ 何かに夢中になりたくて必死なんだよ みんな何かを好きになりたくて たまんないんだよ ねえ?そうじゃないかなぁ?
作品⑤『ジオラマボーイ・パノラマガール』
あらすじ
女子高生であるハルコは高校をやめたばかりのケンイチと出会い、恋に落ちる。画一化された人工的な東京の暮らしと自分の人生にうんざりしていたハルコだったが、運命の出会いを果たし、「生きていてよかった」とすら思う。しかしケンイチはもう1人の「髪の長いキレイな人」に夢中。ケンイチはすぐにハルコのことを忘れてしまった。
残念だけど おことわり
トイレも一人で行けない女のコが
世紀の恋なんてできるとは思えないもん
退屈な毎日の中、ある男の子に一目惚れ…と、一見普通のラブストーリーかと思いきや、次々登場する他のキャラクターに動かされ、物語は奇想天外な方向に発展していきます。感が鋭く、大人びた妹に、売春の仲介をやっている小学生の出現、はたまた、対人恐怖症に悩む美少女も登場…!?コメディチックに描かれた当作品は、物語そのものとして存分に楽しめます。
ありきたりな日々、作られた人生…。ありふれた「ラブ」や、人を好きになること救いを求め、虚無的な人生の中でその意味を見出そうともがく青春の姿が、爽やかに綴られています。
当作品は、今年(2020年)秋に映画が公開されます!楽しみすぎる!
でもやっぱ
いっくら見ても全然すきじゃない
なのにどーして 手をつないでるんでしょ?
こたえは きもちいいからだわ
わたしはわたしがいちばん好き
この世でいちばん自分が好き
他のニンゲンなんて好きなっちゃうから
めんどくさいことになるんですよ
生きてると たまにいいことあんだなぁ
本当にたまにだけど
※『ジオラマボーイ・パノラマバール』は、ネットショッピングでの書籍の販売が見つけられませんでした(2020.7.1現在)。書籍で購入したい方は、ぜひお近くの本屋さんにお問い合わせください。
まとめ
いかがでしたか?
以上、岡崎京子作品、5作品をご紹介しました。
私にとって、岡崎京子さんは大好きな漫画家のうちの一人です。彼女の作品は、他に似たもののない、すごく文学的で、風刺的、そして残酷なほどに「現実」を映し出した作品で、だからこそ、そこから見出される「希望」や「生きることの愛おしさ」は大きなものに感じます。彼女の作品から、大切なものをいくつも受け取りました。
ぜひ、あなたも、お気に入りの作品を見つけてみてください^ ^
付録
ヘビーな内容の苦手な方には、特に『ジオラマボーイ・パノラマガール』がオススメです。絵も話もとても読みやすいし、わたしの大好きな作品です❤︎
他には『ハッピィ・ハウス』『TAKE IT EASY』とかかな。ぜひ!
▼注意:こちら『ハッピィ・ハウス』の中古本です!(新書の取り扱いが見つけられませんでしたm(._.)m)(2020.7.1現在)
電子書籍でのご購入はこちら
岡崎京子作品は、電子書籍での取り扱いも多数あります。※以下のリンクは、電子書籍の購入リンクです!注文の際にはご注意ください。
※本記事に記載した各著書あらすじは、Wikipedia、映画レビューサイトFilmarks(https://filmarks.com/movies/7908)を参考に改変しました。
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