ああ、あるべきものをあるべき場所に置くだけですべてうまくいくというのに…
わたしの父は生まれてこのかた体温計を薬棚に戻したことがない。わたしの妹は人生で一度も、使ったハサミをもとの場所に戻したことがない。こういうことが永遠にくりかえされているから世界は一向に良くならない。
あるべきものをあるべき場所に置くことこそが、世界の平和を保つために一番大切なことだ。簡単なことなのに、そのことを案外みんな知らないでいる。
「あるべきものをあるべき場所に存在させること」
世界は最初から完成している。すべてのものはみな理由があって存在して、この世はプラマイゼロ。陰と陽。N極とS極。すでに完全体である。しかし、あるべきものがあるべき場所にないが故に問題が発生する。
わたしは2年前に派遣でプリンター修理の工場に勤めていたが、4日で辞めた。決して怠惰ゆえではない。ストレスで私の心が死ぬか、それとも契約期間が終わるか、どちらが早いかと考えて決断した結果だ。
【就活エッセイ漫画第7話】お金って何?
しかし、その工場の事務で働いていた滝沢くんという男の子は、「プリンター修理、やってみたいっす。ぼく、小さい頃からいろんなものを分解するのが好きで。たぶん、プリンター修理、得意なんですよね僕。」と言っていた。そう言いながら、電話の受け答えがなっていないと上司のおばさんにこっぴどく怒られていた。
あの工場の中で、事務の席に座っているべきだったのは私で、ドライバーを握っているべきだったのは滝沢くんだった。しかしそれが叶わなかったから、それだけで、周りの人間が全員不幸になった。だれかが「いるべき場所にいない」というだけで。
たとえば、化石燃料。地中に留まらせておけばよいものを、掘り出して空気中にばら撒くから、地球温暖化や空気汚染を引き起こす。ただ、留めておけばいいのだ。そのままに。あるべき場所に。
たとえば、お金。いまや世界で1年間に生み出された富の8割を、世界で最も豊かな上位1%が独占しているといわれている。そんなんだから、今日も世界から貧困がなくならない。お金があるべき場所は、銀行や仮想世界ではないのだ。その一部が、今夜の食べ物の確保さえ危うい、貧しい人のもとに少しずつあるだけでいい。お金はべつに増やさなくていい。「あるべき場所に」あればそれでいい。
男女も、出会うべき人が出会うべき人の横にいないから、人は苦悩する。お互いの存在を求めている人は山ほどいるのに、「いるべき場所にいない」というだけで不幸になる。だれかが「いるべき場所にいる」というだけで、人間が2人も幸せになる。
ほら今年も、冬の雪が山を凍らせ、その雪解け水が、夏の恵みとなる。水にも「あるべき場所」がある。エリマキトカゲは日本にいるべきじゃないし、ホッキョクギツネはミャンマーにいるべきじゃない。森にあるべきなのはコナラの木、海岸線にあるべきなのは松林。サワグルミの木は川辺にしか生えない。(は?)それが混沌となすとき、わたしたちは、生きてはいけない。
わたしの父は半狂乱になって自分の引き出しをひっくり返して中のものを捨てるということを定期的にやっている。「だいじなときに必要なものが出てこないんじゃ、意味がないんだーーー!!!」ということを2ヶ月に一度はやっている。
わたしの父は買い物の際に受け取ったレシートをすべて車の後頭部席に投げ捨てる。先日、家庭教師の子を合格祝いにパフェをご馳走しようと久しぶりに車を出し、いざ!と思ったら、車の中はとても人を載せられる状況ではなく、私は半泣きになりながら片付けた。
「あるべきものをあるべき場所に置くだけで、世界のほとんどのことはうまくいく」
私の持論だか、頭の良い人ほどこの法則に気付いている。だから、ある家族のIQを測りたければ、その家にハサミが何本あるかで確かめるといい。この法則に気付けずにハサミをあるべき場所に戻せないと、新しいものを買うハメになるから、その家にはどんどんハサミが増えていくことになる。すなわち家の中にあるハサミの数が少ないほど頭脳明瞭の家庭ということが分かる。
(ちなみに我が家には20本くらいある。)
世界をよくする魔法の呪文を教えよう。
ごみはごみ箱に。
ハサミはハサミ置きに。
体温計は薬箱に。
分解作業が得意な人はプリンター工場に。
接客が得意な人はタリーズに。
電車が好きな人はJRに。
表現が得意な人は表現の世界に。
いるだけでいいのだ。
わたしがプリンター工場で働こうとするから、世界から貧困がなくならない。
わたしの妹が爪切りをもとの場所に戻さないから、核開発は止まらない。
すなわち、あなたが「いるべき場所」にいなくて、あるべきものを「あるべき場所」に置かないと、みんなをイライラさせて、世界を破滅へと導くんだよ、わかった?きをつけてね。
体温計は、薬棚に戻す。それだけで、たいていのことはうまく。
まして、靴の中に乾電池が入ってたりすることは、いちばんいけない。
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