「どれがフキちゃんか分からな〜〜い!」と幼い頃よくそう言われた。私は2つずつ歳が離れている3人姉妹の、長女だ。小さい頃わたしたち3人はよく似ていた。しかし成長するにつれてその中身がまるっきり違ってきた。
「おかしいな?同じに育てたつもりなのに。」と父は首を傾げる。同じ環境、同じ親のもとで育ってもそれぞれの個性が出露してしまうから、人間はたぶん身体とかDNA以上の存在であり、「魂はあるよなぁ」と確信させられる。
さて今日お話しするのは真ん中の妹、フミちゃん(仮名)について。
フミちゃんは基本ぼーっとしている。ガサツなところも多分にある。しかしモテる。なぜか魅力がある。それは、彼女の内面には何か「芯」があるからのような気がしている。
フミちゃんとはどんな子なのか。
まず、彼女は自己啓発をはじめとしたスピリチュアルや精神世界といった類のものをまったく信じていない。
前に一緒に本屋さんをぶらぶらした時のこと。私たちはよく平積みになっている本を見て回る。以下は妹のコメントである。
ー『20代のうちにするべき10のこと』
「こういう本ってなんなの?大きなお世話って感じ。ほんとムカつくよね。なんでお前に言われなきゃいけないんだよ!!って。思わない?こういう本を本気で読んでる人っているのかな?」(私ですが。)
ー『引き寄せの法則』
「引き寄せ?なにそれ?思ったことが現実になるって?そんなの当たり前じゃん!!!そりゃいいこと思い描いてたら誰だって自然にそういうふうに行動するじゃん!なに当たり前のこと言ってんだw」
ー『わたしはいつでも宇宙に愛されている』
「宇宙?」
ー『龍神さまとお友達になる方法』
「これは完全にギャグ。」
フミちゃんは決して我が強いわけではない。人をバカにする性分でもない。自己顕示欲も高くないし、向上心があるわけではなく、彼女には特に夢もない。「人生でなすべきこと」とか「辿り着きたい場所」も彼女には特にないからこそ、引き寄せの法則、とか聞いて「は?片腹痛し。」と言えてしまうのだけど、なんだろう、辿り着きたい場所がないのは、そこにはいつだって確固たる「自分」がいるからだと思う。
フミちゃんをよく表しているエピソードが2つある。
一つは、フミちゃんが4歳の時。家の近くにある雑貨屋さんにおつかいに一人で行くことになった。リアル『はじめてのおつかい』である。
お母さんに買い物のリストと1,000円札を渡され、「これをレジのおばさんに見せればいいから。おばさんが勝手に精算してくれて、買い物袋に入れて渡してくれるはずだから、それを持って帰ってくればいいからね。簡単だからね。」とフミちゃんは指示され、「わかった。」と家を出た。
あの時なぜ4歳きりの妹に一人で外出させたか分からないけど、私は母とわりとドキドキしながらフミちゃんの帰りを待っていた覚えがある。15分後、彼女は買い物袋を下げて無事帰ってきた。
「フミちゃんおかえり!!よかった〜、ちゃんと持ってきてくれたね。簡単だったでしょ?」
「うん。」
「ありがとありがと。で、おつりは?」
フミちゃんは何かをクチャクチャ噛んでいる。
「フミちゃんなに食べてんの?」
「キャラメル。」
「え?!どうしたの?それ?」
「買った。おつり余ってたから。」
「…」
「べつにいいじゃん。」
「…」
フミちゃんははじめてのおつかいでドキドキするどころか、「おつりがある」、「ならば他に何か買ってもいいだろう」という判断までして、平然とそれを食べながら帰ってきた。4歳、である。ちゃっかりしているというか。三つ子の魂100まで、というが、フミちゃんは今でもこういう子です。
もう一つ、中学時代の思い出がある。みなさんそうであるように、中学3年生の春には一般的に修学旅行に行く。妹の学年も例に漏れず、京都に行くということだった。
フミ「修学旅行、行きたくない。」
父「え、なんで。」
フミ「修学旅行とかダルすぎる。学年全員で行ってさ、ずっと集団行動。あっち見学したりバス乗ったりこっち行って何食べる、とか、考えただけでダルい。全体的に。そもそも京都とか興味ないし。むしろ修学旅行代返してもらって、そのお金自分の好きなことに使いたいくらい。だから行きたくない。ねー、修学旅行、行かなくてもいい?」
父「…まあ、好きにしなさい。」
放任主義、が父の教育方針である。そしてフミちゃんはリアルに担任の教師に「修学旅行、あたしは行きません、なぜなら行きたくないから」の意思表示をした(一人で!)。そういう例があまりなかったので知らなかったが、修学旅行は「行かない」手続きの方がややこしいみたいだ。フミちゃんは『なぜ修学旅行に行きたくないか』の作文を、担任宛と校長宛に書かされて、返金手続きの書類も書き、挙句、修学旅行中の自習として読書感想文やプリントなど課題もいくつか出された。で、それら全部をやって、無事フミちゃんは修学旅行には行かず、旅費の返金もされた。
これがフミちゃんです。
フミちゃんがもし同じクラスにいたとしても、私はフミちゃんみたいな得体の知れない奴とは決して親友にはなり得なかったと思う。しかし運命的に同じ腹から産まれたために、こんなに身近で彼女を観察することになった。
のほほんと無作為に、しかし真っ直ぐに日々を生きれてしまうのは、そっか彼女は「自己肯定感」がものすごく高いんだな、と感じるときがある。だからそこにお釣りがあれば自分のためにキャラメルを買うし、修学旅行に行きたくなければ行かないのだ。彼女にとってそれはもの凄く「当然」のことなのだ。
さてフミちゃんはモテるので、高校時代から彼氏が尽きたことがほとんどない。よく彼氏を家に連れてきて部屋で過ごしていた。「門限は10時ね。」とお父さんがいうので、彼氏はいつも10時ぴったりに「お邪魔しましたー」と言って玄関を出て行った。
「一体いつも部屋で何して過ごしてんの?毎日一緒にいてよく飽きないね」と私はフミちゃんに言った。よく話す内容尽きないなーと思った。
フミ「えー、べつに。『アドベンチャー・タイム』とか『オーバー・ザ・ガーデンウォール』の録画みたりしてるよ。」
フミ「で、一緒にオープニング歌ってるw」
最高かよ!!!!
なんだよその素敵なデート!!!!センス良!!!えー!彼氏っていいな、とそのとき初めて思った。
私は彼氏がいたことがないのに、フミちゃんには途切れることなくできる、その違いは何だろう?とよく考える。外見的にそんな大きな違いがあるとは思えないけど。
でも、たとえば今、街中にふらふらと存在している10代後半〜20代の男の子を捕えてズラっと並べて、私と妹とどっちを「彼女」にしたいですか?とアンケートを取ったらフミちゃんを選ぶ人が圧倒的に多いと思う。それは分かる。
まずパッと見の華やかさがある。彼女として横を一緒に歩いてほしいと感じさせる可愛げがある。
そして実際のところ話してみてもフミちゃんは面白い。「へー、そうなんだ。」「それ、面白いね。」「そういえば、この前さ、」と落ち着いたトーンでリアクションしつつ、そのタイミングにぱちっと適したエピソードを提供できるセンスがある。ぼーっとしているようで引き出しも多い。面白くないことで無理に笑わないところもドライでいい。それでいて、相手はいつの間にか彼女の醸す空気に同調し、一緒になってリラックスしてしまう、という魔法みたいな技を使うことができる。あれってどこで習得するんだろう?
一方、私はしとやかにウンウン、とか言って相手の聞き役に徹するのだが、初めて自主的に発言するという段階に来たと思ったら「いやー、4次元時空がですね」「貴方は文章は言葉で読む?リズムで読むか?」「自分を無宗教だとまじに思う?」とか気分をダダ下がりさせることばっかり言うから、デートもムードもへったくれもない。相手は帰りたくなってしまう。そんなのは彼女には誰も求めていないっつーのに。知らんけど。
こういう会話は空虚にしか辿りつかないということを私は最近になって学んだんだけど、私がこうやって長い時間をかけてやっと学ぶことを、フミちゃんは感覚的に掴むことができるから、彼女はとても「賢い」人なんだと思う。勉強でいえばフミちゃんは正負の計算さえ未だにイマイチ分かってないのになんでだろう?そういう、生きるための「賢さ」を私よりずっと持っているから、不思議だなぁって思う。
フミちゃんはスピリチュアル系を全く信じていないと言ったが、しかし感覚は鋭いところがある。最近びっくりさせられた出来事が一つある。
私の中学時代の友だちに麻里絵(まりえ)ちゃんという子がいる。麻里絵ちゃんはフミちゃんと同じく可愛いしモテるのだけど、タイプが反対だ。麻里絵ちゃんは勉強ができ、語学も堪能だし、自己向上心も高い。彼女に寄ってくる男性の種類もフミちゃんのそれとは違う感じで、2人はあからさまに「正反対」といった感じだ。
麻里絵ちゃんとフミちゃんに面識はほとんどない。私の知る限りで2人が直接会って話したことは一度もないし、そもそも歳が違うから、学生時代にもお互いの存在をなんとなく認識するということしかしたことがないと思う。2人の間には「私(Fuki)」という接点があるだけだ。
2人はお互いのことをよく知らないはずなんだけど、なぜだろう、たとえば麻里絵ちゃんにフミちゃんの話をすると、空気がピリつくということが多々ある。「うちの妹がさ〜、」と話すと、彼女は一定のリアクションは示すのだけど「早くこの話終わらないかな。」という空気を醸し、それがピリピリと伝わってくる。
一方フミちゃんの方も、麻里絵ちゃんの話をすると、「そうなんだ。(…で?だから何?)」といったふうに反応がごくドライで、彼女に関してハッキリとした感想を持たないみたいだ。
だから私は「この2人は合わないんだな」と感じて、お互いのことを話題に出すのを避けていた。会ったことがないのに相性が合わない人間がいるとはなんとも不思議だ。
しかし最近、フミちゃんが急にこんなことを言い出すからビックリした。
フミ「そういえばこの前、麻里絵ちゃんの夢見たよ」
私「っえ?ま、麻里絵ちゃん?中学の?なんで笑」
フミ「分かんない。てゆーか、割とよく見るんだよね。」
私「えっ、麻里絵ちゃんの夢を?…どんな夢なの?」
フミ「んー。なんか麻里絵ちゃんはいつも怒ってる感じ。でもこの前見たのは逆で、私が麻里絵ちゃんにめちゃくちゃ説教する夢なんだよね。」
私「なにそれ笑 なんて説教したの?」
フミ「麻里絵ちゃんはいつも私にすごい突っかかってくるの。あーだこーだって。だから私は『いちいち突っかかってくんじゃねー。ウザいな。どうしてそうなの?あなたは、人が欲しいものを全部持ってるのに。』って怒ったんだよね。変な夢だよね!」
私はゾッとしてしまった。面識のほとんどない2人だけれど、夢(潜在意識)の中でお互いずっとバトっていたみたいだ。私の知らないところでピシピシと念を飛ばし合っていて、妹はそれをいつもキャッチしていた。だからこそ、お互いの話をすると「ピリつく」ところがあったのかも、と思った。
いちばん驚いたのは、フミちゃんが『あなたはもう全部持ってるのに、人に突っかかるな。』と麻里絵ちゃんの弱点の核を突いたことである。
そう。麻里絵ちゃんは、色んなことができる子で、向上心も高いのだが、しかし反面、自己肯定感が低いところがある。自分に完璧なものを求めて、それと同じことを他人にも求めてしまうから、気疲れしてしまう。明るい笑顔を振り撒きながら、いつも心の中にいろんなものを抱えている子だった。
だからこそ私はフミちゃんと麻里絵ちゃんは『正反対だ』と感じていたのだ。向上心がないのに謎に自己肯定感が強いフミちゃんのその存在に、麻里絵ちゃんはムカついてたんだろうな。こんなことを2人に具体的に話したことはない。しかし見えない世界で、麻里絵ちゃんはずっとフミちゃんに突っかかって文句を言っていたらしい(笑)これは面白い。
まあ、言いたいのは、フミちゃんはスピリチュアルとか信じなーい、と言っている割には感覚的にものすごく優れているということです。
不思議な子だ。
最後に一つ、フミちゃんを「不思議な子だ」と思ったエピソードで締めたいと思います。
フミちゃんの友だちにユリちゃんという子がいる。ユリちゃんは地元では有名な資産家の一族の子だ。高校時代、フミちゃんはユリちゃんの家に行ったことがあって、その日、かなり興奮した様子で話してくれた。
フミ「ユリんち、すごいの!!もう、超っ豪邸なんだよ!!外観もデカイし、庭も広いし、犬もデカイ!!!3階建てでさ、家ん中にエレベーターがあるんだよ??!!スゴくない?!初めて見ちゃったよ。」
祖母「へー、家ん中にエレベーターがあるのはすごいね。そりゃ豪邸だ。」
フミ「うん!階段も螺旋階段でめちゃくちゃおしゃれで!まさにテレビで見る豪邸って感じ!!」
私「へー!」
私「豪邸に住んでる人ってドラマの中だけの話だと思ってたけど、ほんとにいるんだね。」
フミ「そうそう。」
フミ「あー…」
フミ「…立花は童貞だよ。」
私「………え?」
私「なんて?」
立花くんとは、当時のフミちゃんの彼氏であり、彼女より二つ歳上の男の子である。
私「なに、急に笑」
祖母「そうなの?」
妹「うん、私が初めての彼女だったんだって。」
私「へーー…。立花くん、わりとイケイケな感じなのに、意外だね。」
妹「うん。立花はドーテーだよ。」
「…」
ちょいまて、いま、「豪邸(ゴウテイ)」の響きから「童貞(ドーテー)」の話になった?!もしかして…?!!!
「…」
「っなんなんだ、コイツ…!」
と思って、底恐ろしい気分になった。
大変あほらしいけど、そのとき私は、なんか、この子がモテるのも分かるな、とちょっと思ってしまったんだよな…。
…えっとなんの話だったっけ?!まあいいや(笑)
おわりです。
おはようございます。妹さんエピソード、可愛いですね(^-^)Fukiさんの家族さんの話、めっちゃ好きです。
Fukiさんの持つ求感性がいつも研ぎ澄まされていて、すごいなー、、と思いつつブログ拝見してます。
追記※
「求感性」という言葉は一般的には使われていませんね^^;感性を研究してる偉い人が使ってた言葉が頭に残ってて勝手に引用しました。紛らわしくてすいません
naokiさんこんにちは。
フミちゃん可愛いっす笑 家族の話好きですか。私とフミちゃんは良識派ですけど、他の人はトチ狂った人ばかりなので困ったもんです…。特に親世代が。ありがとうございます、「求感性」、高めて参ります!