畑は鏡。それは世界の真実の片鱗であり、繊細な世界への入り口だった。

 

もくじ

なぜ家庭菜園?
いま、この有り様。
ダイキチにできないことなんてない
畑や庭にはその人の本性が出る
ズボラが悪いなんて思っていません
繊細な世界への入り口
宮沢賢治に物語を与えたもの
  ー世界で最も美しい文章。『マリヴロンと少女』より
畑は鏡であり最上級の教室だ

 

 

私は今年の4月に家庭菜園を始めました。

家庭菜園を始めたきっかけはロシア式家庭菜園ダーチャに憧れたこと。また農家になった宇宙飛行士・秋山豊寛さんの存在を知ったことも大きいです。そして環境問題・過包装によるプラスチック問題・自給率・フードマイレージ(食料の輸送距離)問題など、さまざまな社会問題もあり…。

「自らの手で食べものを育てることは、あらゆる社会問題解決の糸口であり、そこにはいろんな答えがあるはずだ…!」

と気付き、意気揚々として家庭菜園を始めました。かんばるぞぉ〜。

 

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しかし、はい、今日この有り様です。

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(草ぼうぼう。飼い犬による獣害にも遭う。)

 

「家庭菜園のはじめ方」という記事を書いたきりブログでの発信もしていません。野菜の成長過程をインスタグラムで近況を投稿するのもめんどくさく、あっという間にやめてしまいました。

初心者向け家庭菜園の始め方。初心者かつ超ズボラな私が知った「植物」のコト。

 

 

そう、気付いたのけれど、私はガーデニングに興味はあるけれど別に畑作業が「好き」なわけではないのでした。

気分がイマイチのらないのです。

 

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3時間ほどかけてやっと雑草を取り除きました。普段からほったらかしているのが仇となった。。毎日ちょっとずつ手をかければいいのに、それができないんです。

 

 

雑草といえば『うさぎドロップ』という映画を思い出します。

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親戚の子どもリンちゃん(芦田愛菜)を預かることになった独身男性ダイキチ(松山ケンイチ)の物語なのですが、彼は独身でありながらなぜか広い庭付きの一軒家に住んでいて(こういうところがリアリティがなくて冷める)、しかもその庭が雑草一つ生えていない、実に手入れの行き届いた庭だったのです…!(そんなことってあるのかよ)

 

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まあいいとして。

 

リンちゃんを引き取る決意をしたダイキチは、親戚の叔母さんに激怒されてしまいます。

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しかし、彼の性格は、ちゃんとあの庭にぜーんぶ現れているのです。

私は、あれだけ広い庭をきちんと手入れできる彼にできないことなんて他にないと思います。

庭を綺麗に保つという奇跡のようなことをできるダイキチが、子ども一人面倒見られないわけがないじゃないかー。そうじゃなきゃおかしいです。いい加減な奴があんな庭を作りあげることはできないのです。ぜったいに。

 

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畑や庭にはその人の本性が出ると思います。

んで、私の畑はこうなのです。

 

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はい。

毎朝ちゃんと起きて畑に行き、雑草を抜き、枯れ葉を取る。それだけのこと。でも、私がそういうことができる人間ならば、私はとっくにこのブログだって毎日更新できているだろうし畑についてもより深く発信してるし、おまけにYourube見て夜更かししたりせず毎日海外メディアをくまなく原語で読んでいて、自己成長に余念がないはずなんです。でも私はそういう人間ではないみたいです。畑を見れば分かります。

 

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(↑春ころのインスタグラム投稿より) 以前はりきって作った花壇も…

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今こうです。鶏の砂浴び場と化してます。

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かわいいから許すけどさ。

 

 

畑は鏡です。

ごまかしの効かない、その人自身の写し鏡です。家庭菜園を通し私は自分がいかにズボラな人間かが分かりました。

 

 

しかし一点ここで断っておくのですが、私はズボラが「悪い」なんて思っていません。

 

私の畑は初年目にして採れ高が非常に高く、農薬を使ってないのに病虫害は一切ないし、おまけに種をまいたはずのない作物が数多く採れたりします。私は、これは畑を雑草ぼうぼうに生やしてのびのびとさせてやっていることが功を成していると思うのです。一見不要と思われる草花との「共生」関係が育まれ、植物本来の力が発揮でき、作物も一層元気になるかのようです。

(これはまことに当てずっぽうで勝手な解釈です。)

 

おまけに、私の草ぼうぼうの畑には、数え切れない数のアリやダンゴムシが住んでいます。

彼らにとって私の畑は良い住処でしょう。無数の草花に身を隠すこともできる、土は柔らかいし、朝露に濡れたハコベの絨毯を歩くときは気持ちがいいでしょう。

 

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また、畑の雑草を抜いたり耕したりする度に、それは実は彼らの住処を「荒らす」ことなんだと気が付きます。引っこ抜いた根元にアリの巣があったり、耕したときにミミズを殺してしまったり。人間にとっては都合が良いと思ってしたことも、ある生き物にとっては迷惑でしかないし侵略ともなるのです。

 

 

と色々述べましたが、言いたいのは、このようにして私が畑で過ごした時間の中には、本を何冊も読むよりももっと感覚的で実際的な発見があったということです。

そしてそれはズボラな私にもきちんと与えられるものみたいです。

 

畑を耕しているとミミズが出てこないかと近くで小鳥がうろうろし始めます。野鳥は人間の行動をよく観察しているのです。また何度も畑を訪れると、毎度会う2匹のカエルがいるのですがそれはいつも同じカエルだと気が付きました。彼らは通りすがりのカエルじゃなくて、ちゃんとそこに住んでいるカエルなのです。あと艶やかなコオロギが1匹。トマトもナスもじゃがいもも、その成長ぷりや花の咲き方から朝夕や季節をちゃんと「知覚」しているのだと気が付きました。そして土の保水力はとても優れたものだと知りました。とてもシステマチックな優れた機能。そして太陽は単なる光でなく「エネルギー」なのだと知りました。

 

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これらは、言葉では分かっていたり想像はできたりするけれども実際の私が何も知らないでいた、世界の真実の片鱗であり、繊細な世界への「入り口」でした。

それは決して本や動画からは知り得ないもので、「体感」に沿った「知識」です。百聞は一見に如かずとも言われる通り、体験は知識の何倍もの情報を与えてくれると感じました。

 

 

 

私の尊敬する作家に宮沢賢治がいます。彼は農学校の講師でもあり、農業に関して多大な知識を持ち合わせていました。しかし彼の物語の多くは、読めば分かる通り、「知識」でなく「体感」や「精神」で書いています。

物語は彼の頭の中から生まれたものではなく、山や川、土の中や夜空や風から彼自身が受け取ったものとしか思えないのです。

 

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ひとりの少女が楽譜をもってためいきしながら藪のそばの草にすわる。
かすかなかすかな日照り雨が降って、草はきらきら光り、向うの山は暗くなる。

ー宮沢賢治『マリヴロンと少女』

私はこの文章を初めて読んだとき、この世にこんなに美しい文章があるだろうかと感動しました。

 

 

そして私は畑にいると、なるほど宮沢賢治の繋がっていた世界と、ほんの表層でしかないけれど、同じものと繋がれている、そんな気持ちがしてくるのです。

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つまり言いたいのは、家庭菜園から学べることは思った以上にたくさんあったということです。それは自分自身のことであり、この世界のことであり。

 

そしてその畑にいる時間や、そこから受け取るものというのは誰に共有できるものでもない、とても「感覚的」で「個人的な」ものなのです。

 

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あなたが家庭菜園を始めたとして、そこから何を受け取れるかといったら、たとえばそれは、青いトマトのみずみずしい色の、これ以上美しい色を見たことがないという感動かもしれません。はたまたそれは、いつもは見過ごしていた空の色や風の匂いだったり、ある人には植物の声が聞こえるかもしれません。

家庭菜園は、鏡です。それは、いつもは曇った自然の姿をありありと見せてくれる鏡。はたまた、自分自身を映す鏡。

そこは、正解も不正解も否定も肯定もない、誰にも開かれた「学び場」です。ようこそ、最上級の教室へ。

 

 

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これがほんとの豊かさだおもう。

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ジャガイモの花ってかわいいんですよ。

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よろこび。

 

 

 

 

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